任天堂の「アドベンチャーゲーム」の現状、ジャンルとして期待はしているがメインストリームで積極的につくるのは難しい


ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(前後編)

 

『ファミコン探偵倶楽部』や『ふぁみこんむかし話』『アナザーコード』など、アクションのスキルをさほど必要としない「アドベンチャーゲーム」と呼ばれるジャンルのゲームを多数リリースしてきた任天堂

根強いファンも多く、こうしたジャンルのゲームの新作も待ち望まれていますが、いまの制作体制はどうなっているのでしょうか。

任天堂の第79期 定時株主総会にて質問が出ています。

Q7 ファミコンのディスクシステム向けの『ファミコン探偵倶楽部』は発売から 30 年経つが、演出やシナリオが非常に優れていて今でも心に刺さっており、こうした長く語られるゲームソフトをコンスタントに出してほしい。今の任天堂ではこうしたアドベンチャーゲームと言われるジャンルのゲームの制作ができる状態なのか。ゲームのジャンルごとの開発体制や、海外の開発者とのコミュニケーションについて教えてほしい。

A7 高橋:
任天堂のソフト開発体制は、社内とセカンドパーティーと呼ばれるソフト制作を手伝っていただいているソフトメーカーさんとを合わせると、世界で数千人規模になり、いろいろなタイプのプロデューサーの下でいろいろなものをつくっています。各プロデューサーには得意分野・不得意分野がありますが、得意分野ばかりやるのではなく、一つのチームでいろいろなことをやり、得意分野とは違うジャンルのソフトにチャレンジすることもあります。バラエティー豊かな開発チームであらゆるジャンルのソフトに対応していこうと考えており、今までつくってきた IP も大事にしながら、新しいものにもどんどんチャレンジしていくつもりです。

また、開発スタッフには、日本語を話す海外出身者やバイリンガルの人もたくさんおり、通訳の方を使うこともあります。実際に顔を合わせてコミュニケーションをとる場合には、日本語か英語を使います。ソフト開発に限らず、任天堂全体がそういう状況になっています。

宮本:
応援歌とも取れるご質問をありがとうございます。私たちも 10 年後も恥ずかしくないソフトをつくりたいと思っています。「シリーズ物ばかりじゃないか」と言われることもありますが、シリーズが 30 年間続いてきたことでブランドとなったものも多数あります。また、シリーズ 1 作目になる新作もつくりたいと思い、常に努力しています。

アドベンチャーゲームに関しては、『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』をはじめ、私も多数つくってきましたが、現在では、制作は結構厳しい状況です。今のゲームは 10 ヶ国語以上にローカライズしており、アドベンチャーゲームでは(一般的にゲーム中の文章量が多いため)ボイスやテキストのローカライズのコストが膨大になります。また、私のような古いゲーマーと比べると若い人はこのジャンルに興味を持ってくれない傾向も感じています。ただ、アドベンチャーゲームの仕組みというのは面白く、カプコンさんの『逆転裁判』シリーズやレベルファイブさんの『レイトン教授』シリーズなどではうまく利用されていますので、まだまだ期待はしているのですが、メインストリーム(主流)で積極的につくるのは難しいという背景はご理解ください。

海外との協業はもう 30 年ぐらい行っており、海外の開発会社とのやりとりを専門に行うスタッフもいますし、私もよく海外の会社と仕事をしています。今度の『ルイージマンション3』も海外の会社(Next Level Games 社)と一緒につくっています。長い時間をかけて、グローバルなソフト開発体制をつくってきました。近年では任天堂本社内にもずいぶんと海外出身者が増えてきて、お昼を一緒に食べたりしながら和気あいあいと開発を行っており、任天堂社内のグローバル化を実感しています。

via: 「第79期 定時株主総会 質疑応答」(PDF:417KB)

任天堂・宮本茂氏は最近のゲーム市場におけるアドベンチャーゲームの立場を「現在では、制作は結構厳しい状況です」だと説明。文章量が膨大になりがちなジャンルであることから、各地域の市場にあわせたローカライズのコストが膨大になること。また以前ほど人気のジャンルではなく、ビジネス的にも難しいことを理由にあげています。

メインストリーム(主流)で積極的につくるのは難しいという背景はあるものの、宮本氏自身、アドベンチャーゲームの仕組みは面白いと考えており、他社の人気シリーズ『逆転裁判』や『レイトン教授』など成功例もあって、まだまだ期待はしていると述べています。

最近の任天堂が発売するパッケージタイトルは、日本だけでなく海外でも売れる、人気を期待できるソフトがほとんどになっています。パッケージ版が難しくても、eショップもあるわけで。配信タイトルとして小規模なソフトも出し続けてもらいたいものですけれど。

海外の開発者とのコミュニケーションについて

高橋伸也氏は任天堂の現在のソフト開発体制について、社内とセカンドパーティーを含めると、世界で数千人規模になっていると説明。得意分野で開発していくばかりでなく、得意分野とは違うジャンルのソフトにチャレンジすることもあるのだとか。人気を確立しているシリーズ・キャラクターが目立っていますが、任天堂としては新しいものにもどんどんチャレンジしていくつもりだと回答しています。

宮本氏は、海外スタジオとの協業はかれこれ30年近く行っていて、海外の開発会社とのやりとりを専門に行うスタッフもいる。自分自身もよく海外の会社と仕事をしていますと回答。一例として、Next Level Gamesと共同開発を進める『ルイージマンション3』をあげています。

協業しているだけでなく本社内にも海外出身者が増えており、お昼を一緒に食べたりすることもあるのだそう。高橋氏によると、ソフト開発に限らず、任天堂全体が日本語または英語でコミュニケーションを取れる環境になってきているとのこと。

任天堂のセカンドというと国内のモノリスソフトが目立っていますが、海外にもレトロスタジオ(現在『メトロイドプライム4』を開発中)があり、資本関係が不明ながら『ルイマン3』を開発するNext Level Gamesや『New3DS専用ゼノブレイド』などのMonster Gamesもセカンドに近い関係だとされています。

協業という意味では、最近だとニンテンドー3DSの『メトロイド サムスリターンズ』がスペインのMercurySteamとともに制作されました。スイッチの『いっしょにチョキッと スニッパーズ』はイギリスのSFB Gamesが手がけたタイトルです。海外スタジオだと日本のスタジオとはまた違った個性を見ることができますし、シリーズ・キャラクターに応じて今後も積極的に協業してもらいたいところ。

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