任天堂 “驚き”を生む方程式 (単行本) 任天堂 “驚き”を生む方程式 (単行本)
井上 理 (著)
出版社:日本経済新聞出版社

ニンテンドーDS とWiiによってゲーム業界の覇権を再び取り戻した、任天堂の強さに迫る一冊。最近の成功だけではなく、ゲーム&ウォッチ、ファミコン発売に至るまでの苦労時代も掲載されている。

これまで関連本の少なかった任天堂ですが、ネットに散らばっている情報や雑誌等に掲載された記事、前社長である山内相談役や現経営陣である岩田聡社長、宮本茂専務らへの直接取材によって生の言葉も掲載されています。

作品名を間違えたり、数字を間違えたりするとんでもな業界本も多い中、その部分に関してもちゃんと書かれている(生産出荷と販売台数の混同はあったかもしれないけれど)しっかりとした1冊。

プロローグ 「100年に1度」に揺らがず
第1章 ゲーム旋風と危機感
第2章 DSとWii誕生秘話
第3章 岩田と宮本、禁欲の経営
第4章 笑顔創造企業の哲学
第5章 ゲーム&ウオッチに宿る原点
第6章 「ソフト体質」で生き残る
第7章 花札屋から世界企業へ
第8章 新たな驚きの種
エピローグ 続く”飽きとの戦い”

第一線を退いたとはいえ、今もなお山内氏の影響力、カリスマは絶大で、任天堂にしっかりとその考え方が根付いている事がよくわかる。ニンテンドーDSの2画面は、普段ゲームをやらないという山内氏最後のアイデア。山内社長は語録も素晴らしい。囲碁もプロ級だという。勝負師として研ぎ澄まされた感性が経営にも影響したのだろうか。目が利く。ぜひご一冊は本を出していただきたい人の1人だ。

現在の岩田社長は理系だからなのかデータで攻めるタイプ。プレゼンの時にはデータを多用し、数字でもって納得させる。柔らかい物腰とは裏腹に、山内社長時代よりもドライでエグい戦略をとるように見える。

娯楽に徹せよ。独創的であれ。

メディア容量の増大によって業界全体が重厚長大路線に突き進んでいた90年代後半に「軽薄短小」を説いた山内社長(当時)の直感。発言当時は、携帯機ではポケモンがゲームボーイを復活させたけれど、それが単発のまぐれ当たりに思われていたこともあって、負け惜しみだとも言われていた。しかし結果的には、山内社長の考えが正しかったという事を、DSやWiiで任天堂自身が証明して見せた。

N64や64DD での周辺機器を追加していく構想であったり、書き換え機能による売り切りで終わらない追加要素を付加していく構想や、ゲームキューブにおけるハードデザインなりはWiiに生かされている。任天堂はただでは転ばない。いけると思ったアイデアは後の作品に引き継がれていく。

しかしながら当時シェアをPSに奪われてしまったのは、出遅れてしまったのも当然あるだろうけど「娯楽というのはよそと同じが一番アカン」という山内氏にとっては「他所のとは違わないけどちょっと良いんです」という、一番ダメな商品になってしまったが故なんだろうな。と考えてみたりする。実際、N64の反省からスタートしたゲームキューブは、その反省が大きかったせいなのか前世代でハード競争に負けたせいか、PSの影響を強く受けているように映り、「ゲームが変わる、64が変える」と強い意志を持って発売されたN64に多くあった尖った作品はゲームキューブでは殆ど見られなかった。

任天堂の超優良サポートについても言及されているけれど、自分も任天堂のサポートにはゲームキューブの修理で1度お世話になったことがある。本に載せられているような美談ではないけれど。ゲームキューブは任天堂初の光ディスクメディアを採用したゲームハードで、それでいて衝撃に対する強さはいつもの任天堂ハードという恐ろしいハード。持ち運びしやすいように取っ手も付いていて、時には凶器にもなる(当然、そんな使い方はすべきではないけれど)。

そんなゲームキューブだけれど、やはり光ディスクを採用したせいか、ピックアップレンズが消耗するようで読み込み不良が起きてしまった。当時既に保証期間は過ぎていたものの、なんと無料で、しかも送料も任天堂が負担してくれた。都市伝説レベルで聞いたことはあったものの、身をもって任天堂の優良サポートを目の当たりにしたことで、ますます好きになったのだった。勿論すべてが無料になるわけではないだろうけど、他の電機機器が故障なりしたときはあまりに事務的に、そして当然ながら有料だったので驚いてしまった。

娯楽品である以上、飽きられたら終わり。という飽きへの恐怖感から生み出される頑丈なハードと、手厚いサポート。そしてインタラクティブなソフト作り。ゲームらしいゲームという、いつの間にか凝り固まってしまった思想をはずれ、「ユーザーが何か入力して、返ってくる反応が面白ければいいじゃないか」という、今の任天堂の考え方。

「アイデアが枯渇して、何をしていいのかわからなくなったら、社業をやめなきゃしょうがないよね。そんなことで行き詰ったら何をするの。何もすることがないやないの。ハードの会社?なれないよ、そんなの」と、語る山内相談役。

アイデアを出し続けられるという自信と、娯楽屋に徹する覚悟。これが社全体に受け継がれているのだから強いはずだ。無関心層を相手に新しい提案を続ける任天堂の快進撃はまだまだ続きそうだ。

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